かしほん別館では、古今東西、クラシックからロックやポップス・童謡まで、翻訳者目線で見て「こんな訳はオレには絶対思い浮かばないよ…」と、脱帽して嫉妬してしまうほど秀逸な訳詞(歌詞の翻訳)を紹介します。
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☆『イパネマの娘』
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【コメント】
『メリー・ウィドウ・ワルツ』は、
レハール作曲のオペレッタ「メリー・ウィドウ」
の中に出てくる一曲です。
「メリー・ウィドウ」はドイツ語のオペレッタ。
ドイツ語でのタイトルは
Die lustige Witwe(愉快な未亡人)
『メリー・ウィドウ・ワルツ』には、
Lippen schweigen(唇は黙っていても)
という題名が付いています。
冒頭の歌詞を直訳すると、
堀内敬三さんの訳詞では、
「バイオリンは囁く」の部分を
原詞の「バイオリンは囁く」という
擬人法も素敵で捨て難いですが、
堀内敬三さんは、
翻訳の過程で擬人法をなくし
主語(バイオリン)も省き、
「高なる」
というたった一言の日本語で
恋心を見事に映し出しています。
高なる調べと共に高なる胸のうち
が絶妙に表現されていますね!
堀内敬三さんの訳詞は
『私の青空』 や 『ハバネラ』
でも紹介しましたが、毎度のことながら
翻訳センスと技量に惚れてしまいます。
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【コメント】
『残されし恋には』は、
1968年の映画「夜霧の恋人たち」の主題歌。
シャルル・トレネ(Charles Trenet)の曲です。
ナチスによる占領下のパリで1942年に書かれました。
シャルル・トレネの曲としては、
『詩人の魂』 も以前に紹介しました。
今回ご紹介する曲は、日本語の題名は
「残されし恋には」
ですが、元のフランス語では、
最初に挙げた原詞の一節を訳すと・・・
交わした愛の言葉や口づけや、
二人で毎年感じた四月の薫風。
そういったものはすべて消え去ってしまい、
残っているのはただ1枚の古い写真だけ。
時と共に風化していく昔の恋の思い出を
物哀しくもセピア色に振り返る様子を
黒川玲子さんは以下のように訳しています。
今宵 風の音に想う
過ぎた昔の二人の恋を
今も想い出の写真は
やさしく私にほゝえみかける
この訳詞のすごいところは言葉の削りかたです。
同じ内容をふつうの文章で書くと、
長々となってしまいそうな文章を、
理解できるギリギリのところまで
絶妙に言葉を削っています。
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【コメント】
『ムーン・リバー』は、みなさんご存じでしょう。
映画「ティファニーで朝食を」のなかで
オードリー・ヘプバーンが歌っていた曲です。
ヘプバーンが歌う『ムーン・リバー』の動画
本当に素敵ですね~♪
冒頭部の歌詞を直訳すると・・・
今回の訳詞家・吉田旺さんは、
日本レコード大賞受賞曲である
ちあきなおみさんの「喝采」をはじめ、
たくさんの歌詞を書かれている作詞家です。
吉田旺さんによる『ムーン・リバー』の訳詞は、
原詞の内容とは離れ、別れの歌となっています。
ムーン・リバー ふるさとの
海につづく川
わかれのかなしみ
流していっておくれ
かなり超訳なので、訳詞というよりも
これはこれでひとつの立派な日本語作詞です。
なので原詞と見比べても意味はないのですが、
私はあえて、最初の歌詞に注目しました。
原詞では、
それに対して訳詞では、
大きな川を表現するときに、
原詞のように幅で表現することも
訳詞のように長さで表現することも
できますね。
翻訳の際に、吉田旺さんの頭の中で
幅→長さ、つまり横→縦の変換がされて、
この訳詞が生まれました。
原詞からどんどんとイメージを膨らませ、
意味や言葉を変換して変えていくのが
訳詞をするときの楽しみのひとつです♪
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【コメント】
ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」
に出てくる『ミニョンの歌』が原詞です。
この小説を題材にして、アンブロワーズ・トマが
オペラ「ミニョン」を作りました。
日本語の訳詞はたくさんあります。
古いところでは、森鴎外さんの訳詞。
原詞に忠実な訳になっています。
コラム 「森鴎外とドイツ語詩の翻訳」
もぜひあわせてお読みください♪
また、数々のオペラを訳している
堀内敬三さんの訳詞はこちら。
実は、ゲーテの原詞の冒頭は
あなたは、レモンの花の咲く国を知ってる?
となっており、「南の国」という言葉は
使われていません。しかし、
君よ知るや 南の国
という訳詞は、曲の歌いだしとして
夢のある素敵な言葉遣いの名訳ですね♪
ちなみに、ここでの「南の国」は
ゲーテの小説の中ではイタリアのことです。
今回とりあげる安井かずみさんの訳詞は、
天地真理さん主演のミュージカル
「君よ知るや南の国」
のために作られた日本語詞です。
安井かずみさんの訳は、
優しくて柔らかい現代風の日本語
で可愛らしさがありますね♪
ただし、冒頭の一節だけは、
森鴎外・堀内敬三の両氏の名訳
君よ知るや南の国
をそのまま採用しています。
安井かずみさんの訳詞全体の
雰囲気に合わせるのであれば、
冒頭も「君よ知るや」ではなく
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【コメント】
原曲は、ロシア民謡の『Огонёк』です。
Огонёк は「光」や「ともしび」の意味。
作詞は、詩人ミハイル・イサコフスキー。
第二次大戦中の1942年に彼が書いた詩が
当時のソ連の大衆に評判となり、
多くの人に口ずさまれるうちに、
いつしか曲が付いたのだそうです。
原詞は、
戦場に向かう若者を見送る娘
の切ない別れを歌っています。
上記の原詞の一節を直訳すると
ロシア語の知識不足で
訳の正確さに自信がありませんが、
おおすじは上記のとおり。
訳詞を作った「楽団カチューシャ」は、
第二次大戦中にソ連に抑留されていた
日本人捕虜が、戦後、日本帰国後に
結成した音楽舞踊団です。
楽団カチューシャによって日本語に
訳されたロシア民謡が数多くあります。
以下の論文に詳しい説明がありますので
ご興味ある方はぜひご参照ください。
さて、楽団カチューシャの訳詞を見てみると、
戦争に関わる直接的な言葉は
訳詞では避けられています。
「ますらを」は、日本男児を表す
代表的な表現ですね。
特に素晴らしい訳は、最後の部分。
原詞では、огонёк=「光」
という言葉が使われていますが、
ともしびの「光」があれば、
その裏には必ず「影」があります。
「裏の言葉」を活用した翻訳技法で
文責: 福原真吾
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