トップ

歌詞かし翻訳ほん 別館

訳詞の名訳を集めました

かしほん別館では、古今東西、クラシックからロックやポップス・童謡まで、翻訳者目線で見て「こんな訳はオレには絶対思い浮かばないよ…」と、脱帽して嫉妬してしまうほど秀逸な訳詞(歌詞の翻訳)を紹介します。

【ネイティブに教わる!シリーズ】 ←新コーナー!!
『イパネマの娘』

目次に戻る


『メリー・ウィドウ・ワルツ』
 訳詞: 堀内敬三

高なる調べに
いつか 心のなやみもとけて
言わねど知る 恋心
想う人こそ 君よと
【原詞】
Lippen schweigen,
's flüstern Geigen
Hab mich lieb!

この曲の原詞と訳詞の全文を読みたい方は・・・
→ 原詞の全文 訳詞の全文

曲を聴いてみたい方は・・・
→ 下記の画像をクリックで再生

原詞で聴く
Lippen Schweigen - Domingo
original
訳詞で聴く
メリー・ウィドウ・ワルツ - 安田祥子
japanese

【コメント】
『メリー・ウィドウ・ワルツ』は、
レハール作曲のオペレッタ「メリー・ウィドウ」
の中に出てくる一曲です。

「メリー・ウィドウ」はドイツ語のオペレッタ。
ドイツ語でのタイトルは
Die lustige Witwe(愉快な未亡人)

『メリー・ウィドウ・ワルツ』には、
Lippen schweigen(唇は黙っていても)
という題名が付いています。

冒頭の歌詞を直訳すると、

唇は黙っていても
バイオリンは囁く
「私を愛して!」

堀内敬三さんの訳詞では、
「バイオリンは囁く」の部分を

高なる調べに
と訳しています。

原詞の「バイオリンは囁く」という
擬人法も素敵で捨て難いですが、
堀内敬三さんは、
翻訳の過程で擬人法をなくし
主語(バイオリン)も省き、
「高なる」
というたった一言の日本語で
恋心を見事に映し出しています。
高なる調べと共に高なる胸のうち
が絶妙に表現されていますね!

堀内敬三さんの訳詞は
『私の青空』『ハバネラ』
でも紹介しましたが、毎度のことながら
翻訳センスと技量に惚れてしまいます。

目次に戻る


『残されし恋には』
 訳詞: 黒川玲子

今宵 風の音に想う
過ぎた昔の二人の恋を
今も想い出の写真は
やさしく私にほゝえみかける
【原詞】
Que reste-t-il de nos amours?
Que reste-t-il de ces beaux jours?
Une photo, vieille photo
De ma jeunesse

この曲の原詞と訳詞の全文を読みたい方は・・・
→ 原詞の全文 訳詞の全文

曲を聴いてみたい方は・・・
→ 下記の画像をクリックで再生

原詞で聴く
Que reste-t-il de nos amours? - Charles Trenet
original
訳詞で聴く
残されし恋には
japanese

【コメント】
『残されし恋には』は、
1968年の映画「夜霧の恋人たち」の主題歌。
シャルル・トレネ(Charles Trenet)の曲です。
ナチスによる占領下のパリで1942年に書かれました。

シャルル・トレネの曲としては、
『詩人の魂』 も以前に紹介しました。

今回ご紹介する曲は、日本語の題名は
「残されし恋には」
ですが、元のフランス語では、

Que reste-t-il de nos amours?
僕たちの恋のなにが残っているのか?
と疑問形のタイトルになっています。
この題名どおりの歌詞の内容で、
遠い昔の恋を思い出しながら
あの恋が残したものはなんだったのだろう?
と回想して振り返る曲です。

最初に挙げた原詞の一節を訳すと・・・

僕たちの恋のなにが残っているのだろう?
あの美しい日々のなにが残っているのだろう?
一枚の写真、青春時代の古い写真

交わした愛の言葉や口づけや、
二人で毎年感じた四月の薫風。
そういったものはすべて消え去ってしまい、
残っているのはただ1枚の古い写真だけ。

時と共に風化していく昔の恋の思い出を
物哀しくもセピア色に振り返る様子を
黒川玲子さんは以下のように訳しています。

今宵 風の音に想う
過ぎた昔の二人の恋を
今も想い出の写真は
やさしく私にほゝえみかける

この訳詞のすごいところは言葉の削りかたです。
同じ内容をふつうの文章で書くと、

今宵、私は、過ぎた昔の二人の恋のこと
風の音を聞きながら想う。
今も私の想い出となっているこの写真
写っている娘は、やさしく私にほゝえみかける

長々となってしまいそうな文章を、
理解できるギリギリのところまで
絶妙に言葉を削っています。

風の音に想う
という表現は簡潔で、哀愁も漂って、
素敵な訳だと思いませんか?

目次に戻る


『ムーン・リバー』
 訳詞: 吉田旺

ムーン・リバー ふるさとの
海につづく川
わかれのかなしみ
流していっておくれ
【原詞】
Moon river, wider than a mile
I'm crossing you in style someday
Oh, dream maker
You heartbreaker
Wherever you're goin', I'm goin' your way

この曲の原詞と訳詞の全文を読みたい方は・・・
→ 原詞の全文 訳詞の全文

曲を聴いてみたい方は・・・
→ 下記の画像をクリックで再生

原詞で聴く
Moon River - Audrey Hepburn
original
訳詞で聴く
ムーン・リバー
japanese

【コメント】
『ムーン・リバー』は、みなさんご存じでしょう。

映画「ティファニーで朝食を」のなかで
オードリー・ヘプバーンが歌っていた曲です。

ヘプバーンが歌う『ムーン・リバー』の動画
本当に素敵ですね~♪

冒頭部の歌詞を直訳すると・・・

ムーン・リバー 果てしなく広い
いつかあなたを堂々と渡ってみせる
夢を与えてくれるあなた
わたしの心を砕くあなた
あなたが行くところならどこへでもついて行くわ

今回の訳詞家・吉田旺さんは、
日本レコード大賞受賞曲である
ちあきなおみさんの「喝采」をはじめ、
たくさんの歌詞を書かれている作詞家です。

吉田旺さんによる『ムーン・リバー』の訳詞は、
原詞の内容とは離れ、別れの歌となっています。

ムーン・リバー ふるさとの
海につづく川
わかれのかなしみ
流していっておくれ

かなり超訳なので、訳詞というよりも
これはこれでひとつの立派な日本語作詞です。

なので原詞と見比べても意味はないのですが、
私はあえて、最初の歌詞に注目しました。

原詞では、

Moon river, wider than a mile
直訳すると、
「1マイル以上も広いムーン・リバー」
幅が広い川ということですね。

それに対して訳詞では、

ムーン・リバー ふるさとの海につづく川
ここでは、ではなく、
故郷まで遠く長く続く川ということです。

大きな川を表現するときに、
原詞のようにで表現することも
訳詞のように長さで表現することも
できますね。

翻訳の際に、吉田旺さんの頭の中で
幅→長さ、つまり横→縦の変換がされて、
この訳詞が生まれました。

原詞からどんどんとイメージを膨らませ、
意味や言葉を変換して変えていくのが
訳詞をするときの楽しみのひとつです♪

目次に戻る


『君よ知るや南の国』
 訳詞: 安井かずみ

君よ知るや南の国
香る風に オレンジの花
夢に描く 南の国
みどり木陰 よりそうふたり
【原詞】
Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn,
Im dunkeln Laub die Gold-Orangen glühn,
Ein sanfter Wind vom blauen Himmel weht,
Die Myrte still und hoch der Lorbeer steht?

この曲の原詞と訳詞の全文を読みたい方は・・・
→ 原詞の全文 訳詞の全文

曲を聴いてみたい方は・・・
→ 下記の画像をクリックで再生

原詞で聴く
Kennst du das Land - Mignon
original
訳詞で聴く
君よ知るや南の国 - 天地真理
japanese

【コメント】
ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」
に出てくる『ミニョンの歌』が原詞です。

この小説を題材にして、アンブロワーズ・トマが
オペラ「ミニョン」を作りました。

日本語の訳詞はたくさんあります。
古いところでは、森鴎外さんの訳詞。
原詞に忠実な訳になっています。

君知るや南の国
レモンの木は花咲き くらき林の中に
こがね色したる柑子は 枝もたわわに実り
青き晴れたる空より しづやかに風吹き
ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く
*「柑子」の読みは「かうじ」。

コラム 「森鴎外とドイツ語詩の翻訳」
もぜひあわせてお読みください♪

また、数々のオペラを訳している
堀内敬三さんの訳詞はこちら。

君よ知るや 南の国
木々は実り 花は咲ける
風はのどけく 鳥は歌い
時を別(わ)かず 胡蝶舞い舞う
光満ちて 恵みあふれ
春は尽きず 空は青き

実は、ゲーテの原詞の冒頭は
あなたは、レモンの花の咲く国を知ってる?
となっており、「南の国」という言葉は
使われていません。しかし、
君よ知るや 南の国
という訳詞は、曲の歌いだしとして
夢のある素敵な言葉遣いの名訳ですね♪

ちなみに、ここでの「南の国」は
ゲーテの小説の中ではイタリアのことです。

今回とりあげる安井かずみさんの訳詞は、
天地真理さん主演のミュージカル
「君よ知るや南の国」
のために作られた日本語詞です。

安井かずみさんの訳は、
優しくて柔らかい現代風の日本語
で可愛らしさがありますね♪

ただし、冒頭の一節だけは、
森鴎外・堀内敬三の両氏の名訳
君よ知るや南の国
をそのまま採用しています。
安井かずみさんの訳詞全体の
雰囲気に合わせるのであれば、
冒頭も「君よ知るや」ではなく

ねぇ、あなた知ってる?
ぐらいの柔らかい言葉でもよかったハズ。
ですが、この曲のように、
すでに世間に広まっている定訳の名訳
がある場合には、その訳がそのまま踏襲される
ことも翻訳ではよくあります。

目次に戻る


『ともしび』
 訳詞: 楽団カチューシャ

夜霧の彼方へ 別れを告げ
雄々しきますらを いでてゆく
窓辺にまたたく灯に
つきせぬ乙女の 愛の影
【原詞】
На позиции девушка
Провожала бойца,
Тёмной ночью простилася
На ступеньках крыльца.
И пока за туманами
Видеть мог паренёк,
На окошке на девичьем
Всё горел огонёк.

この曲の原詞と訳詞の全文を読みたい方は・・・
→ 原詞の全文 訳詞の全文

曲を聴いてみたい方は・・・
→ 下記の画像をクリックで再生

原詞で聴く
Огонёк
original
訳詞で聴く
ともしび - 倍賞千恵子
japanese

【コメント】
原曲は、ロシア民謡の『Огонёк』です。
Огонёк は「光」や「ともしび」の意味。

作詞は、詩人ミハイル・イサコフスキー。
第二次大戦中の1942年に彼が書いた詩が
当時のソ連の大衆に評判となり、
多くの人に口ずさまれるうちに、
いつしか曲が付いたのだそうです。

原詞は、
戦場に向かう若者を見送る娘
の切ない別れを歌っています。

上記の原詞の一節を直訳すると

少女は、戦場に向かう
兵士を見送った
暗い夜に、別れを告げた
玄関先の階段で。
そして、霧の向こうに
若者の姿が見える間ずっと
娘の窓では
すべてが光のなかに燃えていた

ロシア語の知識不足で
訳の正確さに自信がありませんが、
おおすじは上記のとおり。

訳詞を作った「楽団カチューシャ」は、
第二次大戦中にソ連に抑留されていた
日本人捕虜が、戦後、日本帰国後に
結成した音楽舞踊団です。

楽団カチューシャによって日本語に
訳されたロシア民謡が数多くあります。

以下の論文に詳しい説明がありますので
ご興味ある方はぜひご参照ください。

戦後日本における「ロシア民謡」の受容と変容
ー訳詞はいかに作られるかー 浜崎慎吾

さて、楽団カチューシャの訳詞を見てみると、

夜霧の彼方へ 別れを告げ
雄々しきますらを いでてゆく
窓辺にまたたく灯に
つきせぬ乙女の 愛の影

戦争に関わる直接的な言葉は
訳詞では避けられています。
「ますらを」は、日本男児を表す
代表的な表現ですね。

特に素晴らしい訳は、最後の部分。

つきせぬ乙女の 愛の影

原詞では、огонёк=「光」
という言葉が使われていますが、
ともしびの「光」があれば、
その裏には必ず「影」があります。

「裏の言葉」を活用した翻訳技法で

愛の影
という言葉が生み出されました。
物哀しくて艶のある素敵な訳語ですね♪

目次に戻る


次の5件 ← → 前の5件

love_man
文責: 福原真吾
お問合せ&プロフィール


inserted by FC2 system