【目次】
・この歌曲について
・翻訳してみよう!
・翻訳ワンポイント
・詩の内容について
・詩の分析(脚韻など)
・参考サイト
ハイネの詩にシューマンが曲を付けた連作歌曲『詩人の恋』の第13曲目です。1840年の作品。この年は、シューマンが特に多作だった年で、「歌曲の年」と呼ばれます。
Ich hab im Traum geweinet,
僕は夢の中で泣いた
Mir träumte, du lägest im Grab.
君が墓に横たわっている、そんな夢だった。
Ich wachte auf, und die Träne
僕は目を覚ました 涙がぽろぽろと
Floß noch von der Wange herab.
まだ頬を伝い流れ落ちていた。
続きは、こちら(訳詞集)
この詩では、3段階で涙が流れています。次第に涙の量が増えていきます。3段階の涙をどう表すかが今回のポイントです。
私訳では擬態語を使って
ぽろぽろと→さめざめと→とうとうと
と訳しました。
涙の流れの量に注目して
涙の滴(しずく)→一筋の涙→滝のような涙
といった訳もできそうです。
また、「濡らす」を使って、
頬を濡らす→枕を濡らす→シーツを濡らす
という手もあるでしょうか?
翻訳としてはやりすぎですかね。。
涙に関わる擬態語/擬音語
ぽろぽろ, わんわん, おんおん, えんえん, しくしく, めそめそ, ぐすん, さめざめと, はらはらと, とうとうと, よよと
3連とも
僕は夢の中で泣いた
→どんな夢だったかというと・・・
→夢の内容
→目を覚まし涙を流した
という構成になっています。
ここで、夢の内容と涙の量に注目してみてください!
[夢の内容]
1. 恋人が墓に横たわっている
2. 恋人が僕のもとを去る
3. 恋人がそばにいる
第1連の「恋人の死」は人生で一番悲しいことです。第2連の「恋人との別れ」も寂しいことでしょう。第3連の「恋人がそばにいる」は嬉しいことですね。
[涙の量]
1. ぽろぽろと
2. さめざめと
3. とうとうと
第1連では「ぽろぽろと」涙の粒であったのが、次第に涙の量が増えていって、第3連では「とうとうと」流れ続けます。
同様に、涙が流れる時間も
1. まだ
2. それからしばらく
3. とめどなく
と、次第に長くなっています。
普通であれば、一番悲しい「恋人の死」で一番多くの涙を流すだろうに、この詩の主人公は、「恋人がそばにいる」ときのほうが多くの涙を流しています。「悲しいときに流すのが涙」という一般的な考えを裏切る詩の構成となっています。
・・・と解説するのも野暮でしょうか?(笑)
詩人ハイネは、このようなパラドックス[逆説]によって読者の予想を裏切るのを得意としています。
ロマン主義的アイロニーと呼ばれています。
また、3段階(またはそれ以上)で次第に盛り上げていくことを、修辞技法でクライマックスと呼びます。
3連とも同じリズムになっています。 例として第1連を見てみます。
Ich hab im Traum geweinet,
Mir träumte, du lägest im Grab.
Ich wachte auf, und die Träne
Floß noch von der Wange herab.
青が弱い母音
赤が強い母音
第1行は、
弱→強→弱→強→弱→強→弱
のリズムになっています。
「弱→強」が3回繰り返されるので弱強三歩格といいます。最後に脚韻としてもう1つ「弱」が付いています。
第2行と第4行目は、
弱→強→弱→弱→強→弱→弱→強
のリズムになっています。
これは、「弱→強」の後に、「弱→弱→強」のリズムが2回続いています。
「弱→強」は「アイアンブ」
「弱→弱→強」は「アナペスト」
と呼ばれます。
(詳しくは、こちらのコラムをお読みください)
第2行と第4行は全く同形。第1行と第3行は、最初はどちらも「弱→強」で同形ですが、末尾の終止が異なります。
第1行および第3行をそれぞれ「a」型および「a'」型とし、第2行と第4行をどちらも「b」型とすると、4行が「aba'b」という形になっています。
不完全な交叉韻(unvollständige Kreuzreim)と呼ばれます。
・R. シューマン「詩人の恋」の詩と演奏の解釈
松下伸也先生,名古屋芸術大学研究紀要第37巻 279~291頁(2016)
・Uni Augusburg, Festvortrag am Tag der Universität 1997
Hans Albrecht Hartmann, アウグスブルク大学
・Literarisches Rätsel: Tränen
Lehrerheld
・Pegasus Nr. 95
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以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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